旅行記 ~ 出雲旅行 -トロッコと縁結びの旅- Day3 #8 玉造今昔物語
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第8話:玉造今昔物語
玉湯川のせせらぎ
5話でちらっと触れた玉造温泉。
しかし街並みを紹介するには至らなかったので、ここでさくっと紹介することにしよう。
玉造温泉の中心を流れる玉湯川は、なんとも穏やかな川だ。
・・・最近の大雨に降られるとまた違った顔を見せるのかもしれないが、
少なくとも私の滞在した5日間はすっかり、はんなりお淑やかで小奇麗な様子であった。
▲玉造温泉街
これは全国的にも珍しいと思われるが、
川のすぐ近くから熱いお湯が沸いており、川を眺めながら足湯を楽しむことができる。
▲秋口などは最高の日和だろう
この日は朝から暑く、お湯そのものも結構熱めだったので、少しだけ入ってすぐに脱出。
やはり温泉・足湯は寒い日に温まるからよいものなのだな。
まぁ、私が熱いお湯が苦手なのもあるが、それにしても太陽の光にも照らされてかだいぶ熱かったように思う。
温泉街を南へ南下すると、玉造ならではの橋が見えてくる。
▲緑の勾玉があしらわれた橋
玉造の「玉」こそ勾玉のこと。
神話の世界では、スサノオノミコトが出雲の石で作った勾玉を献上したというようなお話もあるそうな。
玉造温泉では、勾玉をあしらった何某かを随所で見ることができる。勾玉といえば玉造、というアピールの側面もあるだろう。
玉造温泉にはそれ以外にもユニークな施設・建造物がある。
例えば玉造のお湯をテイクアウトできる「湯薬師広場」。
この後バスで通りがかった際には、ひしゃくでペットボトルにお湯を入れる親子連れの姿が見えた。
▲美肌の湯を持って帰れるとは贅沢な
交差点を渡った先には「湯薬師堂」と仏様の像。
▲湯薬師堂
玉作湯神社のすぐ近くには伊勢神宮への距離と時間を示す、笑いどころを抑えた看板まで。
▲伊勢神宮まで480㎞、4日かかるという
さすがに1日120kmはきついな。。。(たぶんそういう問題じゃない
縁結びの店主さま
時は流れ、3日目の夜。
6話、7話で松江と出雲を堪能しすっかり汗だくだったが、玉造温泉へ帰るバスで冷房がガンガン効いていたのですっかり汗も引いた頃合い。
温泉へ入る前に、先に腹ごしらえに出向くことにした。
一畑電車 北松江線 松江しんじ湖温泉行 : 雲州平田駅17:25 → 松江しんじ湖温泉駅18:02
一畑バス 玉造線 玉造温泉行 : 松江しんじ湖温泉19:10 → 温泉上19:52
▲玉造線の一畑バス
玉造温泉街の温泉上バス停で下車し、向かったのは「キッチン花音」さん。
玉造温泉の温泉街はご飯どころがあまり多くなく、おまけに田舎だから夜までやっているお店もほとんどない。
素泊まりプランの人にはもってこいのお店の一つなのである。
▲キッチン花音さん(帰りに撮影)
Google MAPとかだと22時半までやっていることになっているが、
特に平日は1人で切り盛りしていることもありラストオーダーは20時を目途に終了するので注意。
かくいう私も
「結構待ちますがいいですか~?」
「あ、いいですよ」
の受け答えのもと、入れてもらったという具合。田舎は都会より圧倒的に時間にルーズなのだ。
私以外には2組6名ほどが店内にすでに着席していた。私はカウンター席に案内され、さてさてメニューをさっそく開けてみる。
少し古めかしそうな冊子に、美味そうな名前の料理と写真が並ぶ。
▲「円」ではなく「縁」なのが出雲らしい
今回は一段と目を引く「島根和牛のカルビ丼セット」を注文。こういうものに私は弱い。
待っている間、店主さんが忙しなくキッチンを回り続けているのを目の前に眺めていた。
15分くらい経ち私以外の全員に料理が行き渡り、私にも少しずつセット料理が提供され始める。
▲小鉢、サラダがまず登場
店主さんもだいぶ手が空いてきたのか、今度は口のほうが徐々に回り始める。
そんな口からは、旅行者向けにこしらえているのか完全に即興なのかわからないが、昔話がぽんぽん飛び出す。
昔は・・・別に数年前の話ではあるが、一時期縁結びのブームみたいなのがあり、たくさんの独り身の男女が訪れていた時代も。
むろんこのお店にもたくさんの男女が訪れていたのだが、
その当時は相席は実にあたりまえだったらしく、時には店主さんが主導して席へ案内し、うまくカップルが成立した事例もあったそうだ。
まるで縁結びの神様、ならぬ店主様である。
おっと、島根和牛のカルビ丼が出来上がったみたいで、私の前についに提供された。
▲島根和牛のどんぶりが登場
艶々と輝くお肉、もう言うまでもなく最高に美味い一品よ。
▲最高のどんぶりや~
適度に野菜が配置されているのがまたよい、肉ばかりでは飽きてしまうからな。
・・・そんな玉造は今、ご時世柄ということもあるが、縁結びのブームもすっかり廃れてしまったらしく
訪れるのは時たま私のような独り身の男、そしてカップルたち。
時代というのはあっけなく移り変わっていくものなのだ、とカウンター席で私と一緒に並んでいた男性2人組と、ついしみじみしてしまう。
私も独り身の男性といういで立ちであるから、隣の客に『時期が遅かったなぁガハハ』なんて言われはしたものの、
別に縁結びが目当てだったわけではないので、『あーそういう時代もあったんだなぁ』などと、
どこか他人行儀というか、ゲーム内で街の歴史をモブキャラから聞いているような面持ちだった。
ほのかに照る夜の顔
すっかり長話に花が咲いてしまい、1時間以上も居座ってしまったので話の切れ目で清算し退室。
ここで会った人たち、特に同じカウンター席で飲んでいた2人組の男性たちに会うことはままないと思うが、
それもまた一期一会。旅とはそういうものだ。
そんな私の横顔を少し明るく照らすかのように、玉湯川のほとりで小さな祭りが開かれていた。
▲玉造温泉のお祭り
小さな垂れ幕にやはり小さな太鼓、取り囲む浴衣姿のギャラリーの中央に立つのは艶やかに化粧をした1人の女性。
鈍い太鼓の音があたりに響く中、女性の力強い演歌が心地よく耳に入る。
「夏祭り」という単語は、その5音だけでなんだか夏の香りを運んできてくれるようで、私はとても大好きな一語だ。
私は少しの間見物のため立ち止まり、そしてやはり汗だくになったあれこれを着替えたいのもあり、温泉へ入るためお宿へ歩みを進めた。
▲地味だが華やか、そんなかんじ
昼夜を問わず静かな玉造温泉。
昔とは変わってしまった面もあるが、しかし真夏の夜にはふと、昔から変わらないであろう賑やかな顔も魅せる。
それもまた、この温泉街に人を引き付ける魅力なのだろう。
▲夜の玉造温泉、最高の風情